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中野桜まつりと鮎の塩焼き [独り言]

四月某日、澄み渡った青空となったので、最寄りの駅から四駅離れた中野の街に、一人 ぶらりと桜を観に出掛けた。
中野は、アーケードや飲み屋で賑わう一角の西側に、北へ延々と伸びる桜並木の通りがあり、途中、新井薬師公園という 地元の人がちょっと集まる桜の公園もあるのだ。

私は、桜並木を見上げつつそぞろ歩き、新井薬師公園へ入った。 公園には「桜まつり」と横幕が掲げられ 園内には屋台がずらりと並んでいた。
----おや! 鮎の塩焼きの屋台も出ているではないか!
私は鮎の塩焼きには目がなく、居酒屋やこういった屋台で鮎の塩焼きを見つけると、必ず求め 頬張っているのだ。
屋台では、たいてい五百円である。
が、ここのは七百円と書いてある。
----七百円かぁ、高いなぁ・・・・・・高いから今回はやめようかなぁ・・・・・・・・・・しかも、屋台のおじさんは、口をへの字に曲げてむっつりと目を閉じ 椅子にふんそり返ってて なんだか怖そうだし・・・・・・・

中野桜まつり.JPG串にうねり泳ぐ形で刺さった鮎達を横目にゆき過ぎ、屋台の列が途切れた辺りで足を止めた。
----やっぱり食べたい!!
私は鮎屋の屋台へと戻った。

鮎屋のおじさんはスマホを耳に当て、酷く不機嫌そうに何やら話をしていた。
私が鮎屋に正面向いて立つと、おじさんは人差し指を立て「一?」と示した。
私も人差し指で「一」と応えた。
おじさんは不機嫌そうに話を続けながら、スマホを持っていないほうの手で 鮎の一匹を炭の上の網に乗せ 私が差し出した千円を受け取り 三百円を私の掌に乗せた。

おじさんはスマホを置いた。
と、先までとは別人の如く満面の笑みとなり、「今日は花見に来たの?」「どこから来たの?」「あー、あっちのほうなら井の頭公園が近いよねー」などと、鮎を丁寧に何度も裏返しながら話かけてきた。
私も笑顔で話に応じた。
「くれぐれも食べる時、やけどしないでねー! 気をつけてねー!」
串の端の部分をティッシュで丹念に包んで 絶妙に焦げ目のついた鮎を「ハイッ!」と手渡してくれた。

私は公園内で座って食べられる場所を探した。
ベンチもあったが、園内にはお年寄りがたくさんいたので、背もたれのあるベンチはお年寄りのために空けておこう と、花壇の縁のコンクリートの上に腰掛けた。

私が鮎をかじっていると、私の両側に 園内をぶらぶら歩いていたお年寄りが、一人・・・また一人と座り、花壇の縁はお年寄り達でびっしりになった。
首からネームプレートを下げた介護師さんらしき中年の男性に押された車椅子のお年寄りも、わらわらと花壇の縁付近に集まってきた。
お年寄りは全部で二十人くらいいた。
私はいつの間にやら、お年寄り達の輪の中にぽつねんと居る形となった。
「○○さんーん! 写真、撮ってもらいましたかー!」
「△△さんも、写真、撮ってもらいましたかー!」
「これで、全員 撮りましたねー!」
介護師さんは、お年寄り達に声を飛ばした。
「では みなさんに、これからおしぼりとお茶を配りまーす!」
私より左側の端に腰掛けているお年寄りから順に、「はい!××さん、おしぼり!」「はい!◎◎さん、おしぼり!」、私を抜かして「はい!◇◇さん、おしぼり!」・・・・・・
紙おしぼりがお年寄り全員に配られ渡ると、今度は、紙コップに注がれた緑茶が用意された。
「はい!××さん、お茶!」「はい!◎◎さん、お茶!」、私を抜かして「はい!◇◇さん、お茶!」・・・・・・
ベンチは空いたままだったのでベンチに移動しようか・・・・・とも考えたが、今 移動すると、いかにもお年寄り達が来たことが迷惑だと思っていると受け取られても悪いな と思ったので、そのままコンクリートに座って 鮎をかじり続けていた。

「それ、おいくらでしたか?」
私の右隣に腰掛けていた 上下青のジャージの痩せこけたおじいさんが、私の鮎を指差した。
「七百円です」
中野桜まつり1.JPG「そりゃあ高い! ワタシにはとても買えない! とてもとても」
顔の前で 縦にした掌を左右に振り 笑った。
「あらぁ! お魚も売ってるのぉ?!」
そのまた右隣の、くしゃっと寸の詰まった しわくちゃの顔のおばあさんが、ひょいと顔を出した。
「鮎ですよ、そこで売ってますよ」
屋台のほうを指した。
「あらぁ~ そう! 美味しそうだこと!」
ますます顔をくしゃっとさせた。
「鮎、売ってるのね」
今度は左から声が聞こえた。
薄紫色のスプリングコートをまとい 白髪をポニーテールにした 若い頃はさぞかし美人だったろうと思われるおばあさんだった。
「アタシはね、相模川から四里の所に昔 住んでましてね、その頃 相模川では鮎がよく釣れたのよ。 釣り人が季節になるとたくさん来て、ここまで(腰の辺りに手をやり)水に浸かって釣ってたの。 でもね、アタシ達 地元の者は、鮎が減っちゃうといけないからっていうんで、他所から来る釣り人にゆずってあげて釣らなかったのよ・・・・・・」
私は、柔らかな陽を浴びながら 情景を思い浮かべた。

鮎を食べ了え、新井薬師公園を出、再び桜の通りを北へ歩いた。
今日の七百円の鮎は、七百円の値打ちがあったな・・・・・と思いつつ・・・・・・・


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